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刀を“生む”という仕事からみる、仕事とワタシの在り方

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“働く”ことについて考えるにあたり、今回お話をお聞きしたのは、「刀鍛冶」をされている根津啓さん(刀工銘:秀平)。
この「刀鍛冶」というお仕事、現在日本でアクティブに稼働されている方は60〜70名くらいなのではないか、とても希少なお仕事。 しかも根津さんは、刀とは関係のない家庭に生まれ大学を卒業後、刀鍛冶の世界に飛び込んだという異色の経歴の持ち主…。 なぜ「刀鍛冶」という職業を選んだのか、今はどのように生活をされているのか、とても気になりますよね。 そんなお話から、自分の生き方をクリエイトすることについてのヒントを考えてみました!

刀の美の中に神が宿る

まず、刀のイメージについて。「刀」といえば、武士が帯刀していて武器として使用するイメージが強いですが、現在は武器としての使用はされておらず、完成してから全く「切る」ことをしない刀もあるのだそう。
では武器以外でどのように使われていたかと言うと、三種の神器でも知られているように祈願のために奉納したり、式典で儀仗(儀式等に使う装飾的な武器)として持つ、献上・下賜などに使っていたようです。
古くは青銅製の武器から始まり、鉄製になり…飾りがついて、形が変わっていく(直刀→湾刀)という刀の変遷も非常におもしろく感じました。
また、海外では「剣」というものがありますが、これとの違いは、
<海外>剣…さやに装飾がされている・片手で使う仕様
<日本>刀…刀身に精緻な研磨・両手で使う仕様
という特長があるのではないかというお話。
日本の刀は、刀身に実用目的以上の美しさを求めているのだとすると、「なぜ美しくなければならないのか?美の中に神が宿るということは?」という問いがたち、参加者同士で意見を出してみました。
○物理学的側面でいうと、「美しさ」とは対称性・フラクタル・ゆらぎなどに感じる
○美とは、自然が身体を通して現れるもの
○中に中に純粋性を求めていく日本の文化
構造物をつくると美がでる
などなど様々な視点からの意見を聞いた後、根津さんは「答えはないとは思うのですが…」とご自身の想いをお話してくれました。
「潜在的に宿っているものを目に見えるカタチにし、原理そのものでありエネルギーとして存在する神を刀の美しさに宿す「通り道」でありたいと思っています」私はその言葉に、“つくる”ではなく“生む”と表現をされる心髄がありそうだなと思いながら聞いていました。

刀鍛冶を志したきっかけ

根津さんが刀鍛冶になろうと思ったのは高校生の時、東京国立博物館で開催されていた国宝展で「名物 観世正宗」に出会ったのがきっかけだったそう。
いつも直感が先に降りてきて、理由は後でわかるというタイプだそうで、この時も「こういうものを作ることができる人間になりたい」という直感が降りてきて、それに従って今の道に進むことに。 刀工を続けわかってきた理由は、その時対峙した刀から「ある種の修行者としてのレベルの高さと意識の純度の高さ」を感じたこと。そして、「人の作った物には、作者自身の表面的な性格だけでなく、その人の根源的な色合いのような、その存在のかなり奥深いところのものが現れる」ところに魅せられたこと。
一説には当時の金属加工業は修験者等のいわゆる修行者が担っていたという説もあるようで、名刀と出会って刀鍛冶はただの金属加工業の技術ではないと瞬時に感じ取ったのですね。

「自分が原理を洞察し己の感覚を高めれば、それが現れた刀になる。でも、古名刀のような刀を作りたいのではなくて、目指すところは人間として名工(の精神・在り方)に近づくこと」と話す根津さんはまさに修行者だと感じました。 鶏(名工)が先か、卵(名刀)が先か、というような話でもありますが、こういうちょっとした意識の差が世の中に美しいものを生み出しているのではないかと腑に落ちる様なお話でした。

刀の制作工程と修行

刀を作るのには、想像以上にたくさんの人が関わっているのだそうです。刀身を作るだけでも、炭焼師・たたら師(もののけ姫にでてきましたね!)・刀鍛冶・研ぎ師・刀身彫刻師などが関わり、その後外側の装飾にも何人もの職人たちが関わって、4〜5ヶ月かけて一ふりの刀ができあがるようなのですが、途方もない工程です。
まず、良質な砂鉄と木炭を用いて粘土製の炉で三日三晩操業し、鉄を創り出します。
それを扱いやすい大きさにし、硬さ等に応じて等級分けしたものが「玉鋼(たまはがね)」として全国の刀工の手に渡り刀の材料になります。この鉄は近代製鉄に比べて非常に純度が高く「和鉄」と言われます。(洋鉄と和鉄があるのも初めて知りました…!)

その工程の中で刀鍛冶が担当するのは、刀身をつくる部分。
1.卸し鐵(おろしがね)
…そのままだと材料に向かない素材を火床(ほど)で融解し調整する
2.水圧し(みずべし)
…玉鋼や卸し鐵を加熱し、叩いて薄くのばす
3.鍛錬
…泥と藁灰で包んで沸かす「積み沸かし」という工程のあと、延ばしては切り込みを入れて折り返し、また沸かすというサイクルを、繰り返す。
4.造り込み(本三枚)
…軟らかめの地鐵を鍛えて作った心鐵に硬めの地鐵を鍛えて作った刃鐵を鍛接し、それから同じく硬めの皮鐵を片側ずつ鍛接する。そして沸かしながら徐々に延ばしていく。
5.素延べ
…火造り後の姿を想定して、断面が四角いまま延ばしていく。
6.火造り
…叩く部分を加熱しながら、手鎚で刃を薄く打ち出していく。
7.焼鈍し
…ゆっくり冷やす。
8.生仕上げ
…表面を整え、けずる。
9.焼き入れ
…刀身に焼刃土を塗り、焼刃土が乾いてから刀身全体を火床で加熱した後それを水冷する。これにより刃先が硬化し、焼刃土の塗り方に応じた刃紋が生じる。
10.姿直し・鍛冶押し・樋掻き・茎(なかご)仕立てなど
…反りや曲がりを直し、整え、ヤスリ目をつけ、目釘穴をあける。
11.銘切り
…作者の銘や製作年等を刻む。

このような工程で作っているのだそうです。かなり細かく繊細な作業だということがわかります。そしてこの繊細な刀を“生む”作業は、根津さん曰く“自分を繊細に見つめる”ことであり、 “エネルギーを受け取り、出力する”ことであり、重要な修行の一部になっているそうです。 自分を繊細に見つめることから、物事も繊細に捉えられるようになり、それが刀に現れる…。しっかり軸が通っています。

これらのお話を聞いてふと思い出したのが、サイモン・シネックのゴールデンサークルでした。「What」→「How」→「Why」という考え方ではなく、「Why」から始めることが大事だという理論。“何を・どのように”やるのかも大事ですが、“なぜ”やるのかはもっと大事にしたいことです。 これを根津さんはとても自然にやっておられるのだなぁと感じました。 私たちももっと繊細に自分の“なぜ”を見つめると、意識と行動の差異はなくなるのかもしれません。

鉄とのコミュニケーション

お仕事をしているとき、どのような感覚でしているかもお伺いしました。すると「コミュニケーション」という単語が返ってきました。なんと根津さんは鉄を人間のように感じているようです。「金は錆びず年をとらない。その点、鉄は錆が発生し年を重ねるようだが、良い鉄の錆の質は良い。言い換えると、質が良い人は年をとって魅力的になるのと同じように感じる」というお話で鉄にすごく親近感を感じました(笑)。

参加者からのコメントでも、「地球の重量のほとんどが鉄で、(非常に安定した原子なのだとか)その鉄の塊である地球から鉄を使って刀を生んでいる」という非常に印象的なものがあり、その鉄とのコミュニケーションをする仕事に浪漫を感じてしまいました。そしてこの鉄とコミュニケーションすることで、自分ともコミュニケーションしているんでしょうね。なんだか大きな循環を感じます。

刀を“生む”

「通り道」という単語で“生む”を連想した私ですが、もう一つ、根津さんがおもしろいお話を教えてくれました。刀鍛冶が使う炉の火床(ほど)は、神話の時代から女性器を指す言葉「ほと」が語源だと言われているのだそう。神聖とされてきた火から刀をつくる場所の語源が、女性が命を生む場所だなんて、やっぱり刀は“生む”という表現がピッタリだと、興奮してしまいました。
最後に参加者の私たちは刀の鑑賞の仕方を教えていただきました。
実際に根津さんの刀を間近で見てみる貴重な体験。「姿・地鉄・刃紋」の三点を見るとよいそうです。 身体から離し、
姿…反り・身幅・きっさきの大きさ・造形
地鉄…文様・光具合
刃文…細かな粒子のつぶである沸(にえ)、匂・働き
などを鑑賞します。実物は、物なのになんだか生っぽい存在感を感じました。そして自然の力を借りながら、この美の高みを目指し生み出す刀鍛冶の技術はすごいなぁと改めて思いました。

鑑賞の仕方についてもっと知りたい方はこんなサイトも!
というわけで、新たな視点や学びもたくさんありながらも、やっぱり本質は同じなんだなと感じる様な根津さんのお話でした。 今のあなたの仕事に、あなたの在り方が反映されるとしたら…、考えてみると発見があるかもしれませんね。

<今回お話を聞いた方>
刀工銘:秀平(ひでひら)
本名:根津 啓さん(ねづ けい)
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shoko watanabe

shoko watanabe について

デザイナー&プランナー

短大で映像デザインを学んだ後、グラフィックデザイナーとして経験を積む。大阪から東京へ活動の場を移すことをきっかけに、人とのつながり・場づくり・学びへの興味を深めるため、2013年からシブヤ大学で授業コーディネーターとして活動。和文化・街づくり・ものづくりなどのテーマでの授業づくりを展開。また2015年から、株式会社エモーヴに所属。「ワタシクリエイト」に出逢い、人生観が大きく変わる。現在は自分の幸せから周りも幸せになればいいなと、日々ワクワク活動中♪