特集記事
ワタシクリエイトStory vol.01
香川県三豊市。豊かな自然と瀬戸内の温暖な気候に恵まれたこの街で、社会人として、ひとりの人間として、自分の人生を丸ごと生きている女性がいます。ローカルライフニストの島崎ふみ子さんです。コミュニティスペース「暮らしの森」のプロデュースをはじめとして、天然氷のかき氷屋、ベーグル専門店、地方の空き家活用、子ども&ママの学び仕掛け人等々、生まれ育った地元を舞台に縦横無尽に活躍している島崎ふみ子さんの、ワタシクリエイトな生き方と働き方に迫ります。
「島崎さんっていったいどんな人?」
それを知るいちばんの近道は、島崎さんのプロデュースする「暮らしの森」について知ることかもしれません。
「暮らしの森」をひとことで言うならば、地域の人たちがふらりと立ち寄り、人とのつながりが生まれるコミュニティスペース。衣食住全般のプロダクト販売、カフェ、お料理教室、ギャラリーからなる、複合的な空間です。「自分の好きなことを集めていったら、こんな風になりました」と島崎さんは笑います。好きなことを集めていくスタイルは、島崎さんの仕事全般に及びます。
人が好き、働くことが好き
島崎さん:わたしの自宅は今、雑貨屋兼ベーグル屋になっています。それから、夏季限定で毎年、天然氷のかき氷屋もやっています。そうそう、つい先日、古民家を買っちゃったんです。あれを使って何をしようか、今アイディアを練っているところです。そんな風に、自分のアンテナの向くままに生きていますね。
驚くほど多彩な働き方をしている島崎さんですが、その仕事熱のルーツはどこからきているのでしょうか。
島崎さん:それは高校生の頃ですね。とにかくアルバイトが楽しくてしかたがなかったんです。扶養を外れるほど働いて、父に叱られたこともあるくらい。
何が楽しいって、とにかく人と接するのが楽しいんですよね。高校生の頃は特に、大人と話せるのが楽しくて。わたしが仕事好きなのは、人と接する喜びがベースにあると思います。
15年前に、まず個人事業主として雑貨屋を始めました。ただの雑貨屋というよりは、いろいろイベントを企画したり、自分の好きなベーグルの取り寄せをしたりというようなユニークな雑貨屋でした。「暮らしの森」のお話をいただいたのが5年前。今はプロデュース兼運営として関わっています。
役割を超えて「私」を生きる。
社会との接点は自分でクリエイトしていく
島崎さんには22歳と16歳の2人のお子さんがいます。15年前の起業初期は、幼子2人を抱えた子育て真っ只中。島崎さんは、自身の子育てを振り返って、「完全に巻き込み型」と言います。
島崎さん:週末は、小さい子どもたちを車に乗せては、自分の行きたいお店やイベントに連れていきした。わたしのやりたいことにつきあってもらう代わりに、子どもたちの行きたいところも聞いて、必ず行くんです。お互いが楽しく過ごせるように、そこは対等でいたいと思って。そんな風にしていたので、子どもたちは割と小さい頃から、これがうちのスタイルなんだ、と自然に受け入れ、理解してくれていたと思います。
もちろん、中には子どもにとっての負担を考えると参加できないものもあります。でも、そういうものに対して「子どもがいるから行けない」という気持ちはありませんでした。「子どもを犠牲にしてまではやらない」と、自分の中である程度線を引いていました。だからこそ、自分でも納得できたんじゃないかな。
子どもも楽しめる形でアクションに巻き込んでいくこと、一方で子どもの生活を尊重すること。子育て期でも社会との接点をあきらめず、クリエイティブに解決してきたことがわかります。
島崎さんが子育てで一番大切にしていることを伺いました。
島崎さん:子育てでずっと大切にしてきたのは、自立がゴールだということです。「洗濯も料理も掃除も、いつまでもお母さんがやってあげられるわけではない。だから自分でやるんだよ」と言い聞かせてきました。忘れ物したって届けてくれないし、「宿題が嫌だ」と言えば、「それなら捨てちゃえば?」と返事が来る。一般的な「母」のイメージとは違うかもしれません。でも、だからこそ子どもたちも親に変な期待をすることなく、自分のことは自分でできるように育っています。自分の洗濯ものを洗濯機に入れるところから始まって、今は干せるようにまでなって。そういうひとつひとつの積み重ねですね。
仕事と生活を
分けすぎない方がいい
「子育てしていく過程で、周囲と価値観がぶつかることもありました」と島崎さん。
島崎さん:子どもが小さい時、例えばテーブルにぶつかると義母が「(痛い思いをさせるなんて)悪いテーブルだね」という言い方をすることがありました。子どもを慰めたかったんだと思うのですが、わたしはそれは違うと思って。そんな風に言っていると、子どもに誰かのせいにする考え方がしみついてしまうと思ったんです。義母に自分の考えを話して、わかってもらったことがありました。
誰かとぶつかった時に自分の考えを伝えることは、案外難しいもの。相手との関係を崩したくないあまり、沈黙してしまうこともありそうです。しかしそんな時でも、島崎さんはきちんと自分の思いを伝え、対話を試み続けてきました。そこには、子どもの人生を尊重しようとする、強い信念があるように見えます。
そんな島崎さんの姿勢が感じられるお話を、さらに伺いました。
島崎さん:自分の仕事をしたいと思った15年前、最初につくったのは自宅兼雑貨屋。それは、子どもたちが帰って来た時に家にいられるのがいいと思ったからなんです。
帰宅した子どもに「おかえり」と言っておやつを出してあげられる。子どもは遊んだり宿題をしたりしながら、親の仕事姿が見られる。仕事と生活を分けないことの豊かさが、そこにはあるのでしょう。
そんな風にシームレスな営業スタイルが地域でも話題になっていたところ、ある地元工務店さんの目に止まったのが5年前。地域のコミュニティスペースをつくる試みに島崎さんが抜擢され、「暮らしの森」のプロデューサーとしての新しい顔が増えました。
ワタシに還る、時間とプロダクト
2019年に法人化した島崎さん。「暮らしの森」では地域の方やスタッフのみなさんと、家に帰れば二人のお子さんと、人に囲まれて過ごす日々を送る中、自分ひとりの時間を持ちたくなる時はないのでしょうか。
島崎さん:そんな時、わたしは森に行ってます(笑)。ひとりになりたいと思ったら、車に乗ってとにかく木のあるところへ行くんです。木々に囲まれてぼーっとしてみたり、本を読んでみたり。そんなに長い時間はいりません。仕事の合間に30分ぐらいそんな時間があるだけで、リフレッシュできるんです。
仕事の合間のほんのひととき森に入ってのんびり過ごすこと、それが島崎さんの「ワタシに還る時間」のようです。
暮らしの中のこだわりについても伺ってみました。「暮らしの森」で扱うものは、すべて島崎さんによって選ばれた、美しく使い心地のいいプロダクトばかり。中でもコットンのシャツには愛着があるといいます。
島崎さん:いつのまにか、コットンや麻といった天然素材のものしか着なくなりましたね。靴も、ヒールの高いものはほとんど履きません。昔はそうでもなかったんですが、心地よいものしか身につけたくなくなってきたんですよね。
素材や色の好みって、変わっていくと思います。わたしも、子育てしているときにこんなひらひらした服は着ませんでした。とはいえ、「子育て中だからこれはだめ」などと自分を縛ることなく、好きなもの、着心地のいいものを着てほしいと思っています。
これからの島崎さんが
見たい景色・創りたい世界
さて、冒頭で島崎さんが「買っちゃった!」と言っていた古民家のお話が気になります。
島崎さん:古民家に暮らしながら、その生活の中に人が入ってくる、というのを今考えています。もともと和裁をやっていたので着物は好きなのですが、古民家で、着物姿でコーヒーを淹れてもいいだろう、と。
今、三豊エリアは観光が盛んですが、観光は人が来なくなれば廃れてしまいます。でも暮らしのベースの部分に入ってきてもらえば、もし人が来なくなっても暮らしはそのまま残ります。暮らしていくこと、そこに人に入ってきてもらうことが、わたしのこれからの役割かなと思うんです。
また、プライベートでお子さん2人が巣立ちを迎え始める時期だからこそ、「子どもやお母さんのための場をつくりたい気持ちが高まっている」と島崎さんは話します。
島崎さん:お母さんにとっては子連れで来られる安心感がある、子どもにも楽しい思い出が残る場所をつくって、親子連れに来てほしいんです。そこで、お母さんにはお母さん向けのプログラムを、子どもは子どもで居場所を用意してあげられたら、親子ともが楽しい旅になると思うんです。自分のために旅をすることはハードルが高くても、「子どもと一緒に四国へ旅しよう」ということならば、ゴーサインを出せる人も多いんじゃないかと思って。
結局、子どもの人生を温めるのは楽しかった記憶なんです。「あの時ここに行ったな」と大人になった時に思い出してもらえる場所であること。「おかえりなさい」と言える場所。そういう場所づくりが、わたしのこれからの仕事です。
(編集部から)
「対話をあきらめない人」。島崎さんのお話を伺って抱いた印象です。家族や地域、常に人の輪の中にいて誰のこともないがしろにしない、島崎さんのあり方がそうさせるのでしょう。ひとつひとつ対話を重ね、行動を積み重ねて自分のやりたいことを追求し続けてきた島崎さん。これから始まるお仕事も、とても楽しみです。
ふみ子さんをひとことで表すならば「自分の大切なものを惜しみなくシェアしてくれる人」。初対面の時からその印象は変わりません。
いくつもの事業を手がける経営者であり、2人の息子さんを育てる母であり……思いっきり自己実現しているように見えますが、実は、他人の自己実現をとことん応援する人でもあるのです。
「都会の子供達に、自然に触れる場を提供したい」
初対面のzoomでそんな話をしてすっかり意気投合し、それからすぐ、わたしはふみ子さんの住む三豊まで旅をしました。ほとんど何も決めずに向かったのに、ふみ子さんは「この人には会っておいた方がいい」「ここには行っておいた方がいい」と、三豊のキーマン的な人たちのところへ連れていってくれました。
ふみ子さんが買ったという古民家にも伺いました。これから地元の人たちとここを盛り上げたいんだよね、と話した後に
「さわこさんもここに拠点つくっちゃえばいいよ!」
とあっけらかんと言ったふみ子さんには、きっと、「地元の人/よそ者」といった境界線はないのでしょう。自分が長年大切にしてきたものを分かち合ってくれる、懐の深さを感じます。
経営者としても母としても先輩でありながら、フラットに同じ目線で話してくださることも、ふみ子さんの魅力です。これだけ応援してくれているのに、「私もさわこさんから影響受けているんだよ」と、折に触れて言ってくださいます。与えるだけでも受けとるだけでもなく、循環を生み出す。そんなふみ子さんのワタシクリエイトな生き方・働き方を、記事を通して感じていただければ嬉しいです。